それはぼくぢゃないよ

最近では友部正人、佐野元春の旧作のリマスタリング等でも活躍されている、日本で最初のフリーランス・レコーディング・エンジニア、吉野金次氏、70年代初頭から現在まで、録音技師としてだけではなく、アレンジ、プロデュースなど多方面で数 多くの名作の制作に関わっておられます。現在は闘病中とのことですが、この4月 には 昨年行われたチャリティ・コンサートのDVD、「音楽のちから 吉野金次の復帰を願う緊急コンサート」も発売されるそうです。今回はそんな吉野さんのセンスが光る作品群の中から、ほんの少しだけ御紹介。

ohtaki

大瀧詠一 (1972)
BELLWOOD OFL-7
A-1.  おもい
2. それはぼくぢゃないよ
3. 指切り
4. びんぼう
5. 五月雨
6. ウララカ

B-1. あつさのせい
2. 朝寝坊
3. 水彩画の町
4. 乱れ髪
5. 恋の汽車ポッポ第二部
6. いかすぜ!この恋

PRODUCED BY 大瀧詠一
RECORDING, MIXING ENGINEER 吉野金次

「あ・つさのせい」のコーラスが一発で気に入ってこのレコードを買いました。「びん・びん・びんぼう」のトボけたファンキーさ加減もナントモハヤな感 じです。部分部分はモータウンだったり、キャロル・キングだったりするのでしょうが、にもかかわらず、今改めて聴くとこのようなふくよかで暖かみのあるサ ウンドは同時代のアメリカの音楽にはあまり見当たらないテイストのような気がします。特にカントリー・ロック風なA-2.(詞曲とも珠玉の名作)とかア コースティックなB-3.などでは微妙に英国的な香りも漂っていたりして、アメリカ音楽に対する距離感覚において共通するものがあったのでしょうか。そう いえばイアン・マシューズはセカンド・アルバムでA-6.のベースになった「ダ・ドゥ・ロン・ロン」を楽しげにカヴァーしていました。また吉野さんはビート ルズ の録音技術を徹底的に研究していた、というような話も思い出しました。B-4.のイントロのストリングスは吉野さんのアレンジ、とても短いものですが、アルバム全体に奥行きと広がりを与えています。
cup


kaze

風街ろまん/はっぴいえんど (1971)
URC URG-4009
A-風
1. 抱きしめたい
2. 空いろのくれよん
3. 風をあつめて
4. 暗闇坂むささび変化
5. はいからはくち 
6. はいから・びゅーちふる

B-街
1. 夏なんです
2.  花いちもんめ
3.  あしたてんきになあれ
4.  颱風
5. 春らんまん
6. 愛餓を

PRODUCED by はっぴいえんど、アート音楽出版
MIX by 近藤武蔵、山崎聖次、吉野金次

Re-issue LP : SMS SM20-4127

手元に1971年12月号のヤマハ、「ライトミュージック」という音楽雑誌がある。この中で松本隆が「『風街』のための素描(はっぴいえんど新ア ルバム「風街ろまん」について)」という題で散文を寄せている。「風街ろまん」をどういうふうに聴いたらいいのかという内容でちょっと引用すると、「ぼく はロックに風を吹きこんでやろうなんぞという途方もない野望で胸をふくらませながら、フラスコやビーカーや試験管で、ごちゃまぜになった理科実験室にたてこ もって日夜研究していた。」ほんの一部だがそれを読んでいると、当時のはっぴいえんどがこのアルバムに賭けた熱い想いに共感できる。
僕が気に入っているのは細野晴臣が作曲した「風をあつめて」と「夏なんです」の2曲で、ジェイムス・テイラーもびっくりする位(当時細野氏が彼にはまっていた、というようなことを後で聞いたが)細野節が完結しているといっていいだろう。
kettle


live

はっぴいえんど LIVE ON STAGE (1989)
TOSHIBA EMI TOCT-10459 (1998)
1. 12月の雨の日
2. 春らんまん
3. 空いろのくれよん
4. ももんが(暗闇坂むささび変化)
5. かくれんぼ
6. いらいら
7. しんしんしん
8. 抱きしめたい
9. 朝
10. はいからはくち
11. 春よ来い(アンコール)                       



9.〜11.は1971年中津川でのライブ、クレジットはないのですが吉野さんが初めてはっぴいを録音した音源だそうです。「はいからはくち」のタイトな 演奏が素晴らしい。そして2.〜5.の音源は中津川の少し後、日比谷野音での録音。当時幸運にもこのステージを観る事が出来たのですが、お客さんがちょっ と苛ついているみたいで、 ヤジを飛ばされる出演者もいた(ガロとか)中、はっぴいは当時から一目置かれる存在だったのか、まったりと演奏が進んでいったという記憶がありま す。今曲目を見ると録音の真っ最中だった「風街」からの選曲で、お客さんもなんだか分からなかったのかもしれませんが、「空いろのくれよん」の演奏はとても記 憶に 残っています。アルバムと歌詞が全く違う4.では大瀧/細野のデュエットが聴けます。この時ラップ・スティールらしき楽器を初めて目にしたのでした。
cup


agnes

アグネスの小さな日記/アグネス・チャン (1974)
WARNER-PIONEER P-8032W
A-1. 歌はともだち
2. 星に願いを
3. ふたりの日記
4. 想い出の散歩道
5. さみしがりや

B-1. TWINKY(トゥインキー )
2. 雪
3. ポケットいっぱいの秘密
4. さよならの唄
5. 星空の約束          


プロデュース:渡辺音楽出版(木崎賢治)
ミキサー:吉野金次


つい最近、矢野顕子さんがカヴァーしているA-4.を偶然耳にして思い出したのがこのアルバム、松本隆作詞によるこの「想い出の散歩道」は「ほら想い出は もう 風 色」というフレーズが印象に残る美しい名曲。演奏陣にキャラメル・ママや加藤和彦、作詞には安井かずみ、松山猛ら豪華メンバーがクレジットされています。 シングルではカーペンターズみたいだったB-3.はナッシュビル・スタイル(間奏にはニューオリンズ風ピアノも)に衣替えしたノリの良いアルバム・ヴァー ジョンで収録、(吉野さんの誘いで作られたという)歌詞が言葉遊びになっているの も面白いところ。続くアグネス自作のB-4.は「さよならアメリカ さよならニッポン」をシンプルにしたようなアレンジ、昭和歌謡的な楽曲も含め幕の内的に楽しめます。
cup


happy

HAPPY END
ズームTKCK70063 (1993)

1. 風来坊
2. 氷雨月のスケッチ
3. 明日あたりはきっと春
4. 無風状態
5. さよなら通り3番地
6. 相合傘
7. 田舎道
8. 外はいい天気
9. さよならアメリカ さよならニッポン

box

発売当時聴いたレコードの音(LA録音/ミックス)は、バンドのメンバーがミックスに立ち会っていないせいもあったのでしょうか、何か全体がモアッとしていてこぢ んまりというか迫力不足の感が否めなかったのでした。ここに掲げた'93年の吉野氏によるリミックス盤(「はっぴいえんどBOX」収録)は、はっぴいえんど 本来、というか70年代日本のロック的なザラリとした感じに戻ったような印象です。全体に各楽器の輪郭がはっきりしてきた印象で、1.のホーンとか6.の マンドリンのソロ等は前面にグッとせり出してくる感じがあります。今まで聴こえな かった楽器が聞こえてきたり左右の位相が逆だったりとリミックスの効果がはっきり現れているものもあります。反対に8.でのギターのしっとりとした音色な どはうまく再現されていません。単体での発表がなかったこともあって評判も今一つだったようですが、聴きどころの多い作品だと思います。ちなみに"HOSONO BOX"の「風来坊」はこちらのミックスの方がが採用されています。
cup


パラソルさして
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